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NHK大河ドラマ2010年代

NHK大河ドラマ[八重の桜]をみて

投稿日:2014-02-18 更新日:

ここ何年か続いたコスプレ妄想劇的な大河ドラマと比べるなら、2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」は、格段にマトモな出来栄えだったように思います。特定の立場から歴史を見ると、いくらかの偏りが出てしまうのはある程度仕方がないとしても、歴史に真摯に向き合っている姿勢が感じられ、比較的好印象でした。

途中で物語が変わった?!

が、・・・が、なんですよね。この「八重の桜」、これまでとは全く違う形で“ケッタイ”な作品でありました。前半、主人公の八重をそっちのけにしてしまうぐらいの勢いで、スケール感たっぷりに幕末の動乱を描いたかと思えば、後半の京都編では打ってかわって八重ばかりを追い、尻つぼみ。物語の前半と後半で話が別物になってしまっていて、テーマも曖昧に・・・。一体何故こんな事態に?! 私の場合は前半をわりと楽しんで見ることができていたものだから、ガラリと雰囲気の変わった後半が退屈でなりませんでした。次第に見ようという意欲が失せてしまい、未視聴の録画は貯まる一方。やっとこさ見終えたのは、「軍師官兵衛」の放送もとっくに始まっている、ごく最近のこと。

会津編を放送中から、視聴率がイマイチふるわないのは、八重の登場シーンが少ないからだとか、話が散漫だからだとか散々に言われていました。京都編はそれらの批判を聞き入れるかたちで作られたのかも知れません。それからなんと、後半の脚本は山本むつみ以外の人物も担当。もはや山本氏に任せきりにできなかったということでしょう。そこまで大胆なテコ入れをしておきながら、結局のところ視聴率はさして上がらないまま。物語の構想をメチャクチャにされ、山本氏の無念や如何に。視聴率ばかりにとらわれず、プライドを持って同じ路線を貫いて欲しかったです。NHKさんの迷走ぶりは、みっともないことこの上なし。

会津戦争に至るまでを丁寧に描いた前半

確かに、会津における八重の場面は多いとは言えませんでした。けれど八重が鉄砲に関心を抱き、学び、やがて新政府軍と戦うに至るまでの過程は、十分に描かれていたように思います。家族や友人たちとの交流もシンプルかつナチュラルで、良い描写でした。この時点での八重パートの分量は妥当だったのでは。敢えて言うなら、会津に生きる様々な身分の者たちとのふれあいの場面があっても良かったのかも。八重が守ろうとした会津がより尊い地となったでしょうから。

一方、細かすぎるの散漫すぎるのとの批判は、黒船来航以降の混乱ぶりを描いた部分のことを指しているものと思われます。のちに会津が朝敵の汚名を着せられ、理不尽な戦いを強いられるという筆舌に尽くしがたい悔しさは、やはりそれまでの経緯をしっかり描いてこそ視聴者に伝わるものですので、ここはしっかり時間を割いておいて正解だったのではないでしょうか。初めのうちは、のんびりした会津と緊張感溢れる京の二つの舞台を緩急つけながら見せていましたが、やがて鳥羽伏見の戦いが勃発して舞台が徐々に会津まで移動していく様は、まるで日本列島を北上する台風を天気図で眺めているようで、ハラハラドキドキ、圧巻でした。

会津戦争はこの物語の山場とあって、非常に力の入った作りでした。それまでの展開は丁寧ではあるものの、オーソドックス過ぎて盛り上がりに欠けるきらいもあったのですが、会津戦争でクレッシェンドにつぐクレッシェンド。今までじっくり描かれてきたものは全てここに向かっていたのだなと興奮しました。白虎隊はじめ中野竹子の婦女隊、西郷頼母の妻子らの自刃、山川大蔵の彼岸獅子、佐川官兵衛の寝坊などなど有名なエピソードもてんこ盛りで見応えがありました。戦の経過ももっとじっくり見せて欲しかったのですが、時間の都合か予算の都合か、ナレーションやセリフでの説明に頼りがちだったのはちょいと残念。

基調を見失った後半、覚馬の存在も薄く

「八重の桜」の後半は、八重が二番目の夫・新島襄と共に、京都で同志社設立に奔走するというのがメインのお話。八重たち会津人の憤りや喪失感の行方に触れるのもそこそこに、学校設立の資金集めや教師・生徒との衝突などに終始。もはや政治がどうなっているのかは大雑把にしか描かれなくなってしまったし、これまでガッツリ登場していた維新に関わった人々も申し訳程度にその後の動向が紹介されるだけ。ここまですっかり学園モノに変貌してしまうなんて仰天でした。どうせなら、“人材育成”を物語全体を通してのテーマとして取り上げ、教育についてもっと具体的に突っ込んでみてもよかったのでは。会津における徹底した儒教道徳教育、すなわち「什の教え」や「日新館童子訓」などが八重をはじめ会津の人々にどう影響を与えたのかも、ここで改めて示すことができたはずです。八重がキリスト教を信仰するようになった動機にしても、価値観の転換を迫られるほどの過酷な経験をしたことと絡めて描けば、八重により共感することができたのに。

また前半では、八重を導いた人物として、砲術家の兄・山本覚馬にもスポットを当てていましたが、物語が進行するにつれ、覚馬の描写が雑になってしまったことも、後半のストーリーが薄っぺらになった一因です。その功績から考えると、八重よりもむしろ覚馬の方が大河ドラマの主人公として相応しいともいえるほどなのに、覚馬の最も活躍する後半生をわざわざ省略するなんて、全くもって意味が分かりません。リアル覚馬は、寂れゆく京都で、『管見』で訴えた近代日本の理想を実現させていきました。取り組みは教育制度の整備にとどまらず、先進的な産業を多岐にわたり振興しています。そもそもこの『管見』、ドラマではどこから降ってわいたアイデアか、突然書き上げていましたが、実際は佐久間象山ほか勝海舟、西周、赤松小三郎といった人々との交流を通して得た知識を生かして誕生させた、渾身の建白書です。覚馬の描いた理想の国家像が、いかに具体的で先見性に富んだものだったのか、「八重の桜」でも見せて欲しかったです。覚馬の思いと偉業をしっかり描くことで、不屈の会津魂なるものを明確に示せたのではないでしょうか

存在感のある適役が揃った!

終わりに「八重の桜」のキャスティングについて。今回は見事に適役揃いだったように思います。ストーリーと同様、人物の描き方も全体的にステレオタイプ気味だったにもかかわらず、それぞれが新しく特徴的に見えたのは、俳優陣の存在感と演技力の賜物でしょう。皆さん本当に素晴らしかったです。

めちゃめちゃ印象に残ったのは、会津藩主・松平容保役の綾野剛。彼は適役も適役、これほどまで愚直に義を貫きとおす姿が美しい容保は見たことがありません。涙をたたえた、あの力強い目は忘れられません。それから徳川慶喜役の小泉孝太郎。写真に残る慶喜とそっくりなビジュアルで、「二心殿」と言われた切れ者を好演。元首相の息子であるという境遇が醸し出す雰囲気が、すごく役柄で生かされていました。それと私がお気に入りだったのは、八重の最初の夫・川崎尚之助を演じた長谷川博己。川崎尚之助がどのような人柄であったか今一つよく知られていないので、どこまで適役だったかは不明ですが、逆にいえばどうにでも描ける役柄。「八重の桜」では、何故か八重に対して丁寧語を話すという、面白いキャラ付けがなされていた珍しい存在でした。長谷川・尚之助が知的で凛々しくとても素敵だったので、オダギリジョー演じる、のちの夫・新島襄がちょいとかすみました。

それにしても今回の登場人物は、あり得ないぐらいに美男美女揃いでしたね。会津の人々はいうまでもなく、薩摩も長州も土佐も・・・。誰のどのシーンも美しい! いくら不自然であろうと、これはこれで大歓迎。

「八重の桜」という大河ドラマは

ストーリーにはいくらか物足りなさはあったものの、真面目に視聴できる大河ドラマが復活し、ホッとしました。そして何より、東日本大震災発生を受け、東北の復興を支援する役割を担ったという意味では、特別大きな価値があるドラマだったと言えるでしょう。

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