おんな城主直虎

NHK大河ドラマ2010年代

NHK大河ドラマ[おんな城主 直虎]政次ついに死す!

投稿日:2017-08-23 更新日:

大国に囲まれた小さな国衆が、激動の乱世でサバイバル。時代も地域も甲冑の色までも、昨年の「真田丸」とカブるところの多い、2017年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」ですが、世界観が全く異なり、既視感はありません。「真田丸」の視聴率には遠く及ばないようですけれど、私は結構楽しみながら視聴しております。

女性領主・井伊直虎とは

「おんな城主 直虎」の主人公・井伊直虎の生まれは天文五(1536)年頃と言われています。天文三(1534)年生まれの織田信長や天文六(1537)年生まれの豊臣秀吉とはまさに同世代なんですね。戦国時代の真っただ中に生まれ、生きた女性です。相次ぐ一族の死去によって当主不在となってしまったため、直虎は井伊家を守るべく、女の身でありながら井伊谷(いいのや)領主となりました。

「おんな城主 直虎」のような女領主を主人公にした大河ドラマは珍しく、血の気が多い男たちが暴れ回っていた戦国時代に女がどこまでしゃしゃり出て行けたものなのかと、ふと疑問に思ってしまいます。が、この頃の女性の立場は後の江戸時代と比較すると、格段に良かったようですね。嫁いでも生家から持ってきた財産を自分で所有していたので、経済的に自立していたんです。自立していると、自然と発言権も持てるようになるわけですね。よって、当時、女性は庇護されるものという、女性蔑視にもつながる感覚はあまりなかったようです。直虎の場合は生涯独身でしたので、嫁ぎ先ではなく生家において事実上の当主となりましたが、彼女のように表舞台に出てきて政務をとる女性が、この時代はチラホラと出現しました。

井伊家すごいぜ

これまで井伊といえば、私なんかは、つい彦根ばかりを思い浮かべてしまっていたのですが、もとは遠江の井伊谷が本拠地だったんですね。井伊家は、古くは平安時代から井伊谷一帯を支配していたようです。そしてその長い歴史の中で、何度も滅亡の危機にさらされています。ドラマでは、南北朝の動乱で南朝方の親王をかくまった話がちらりと出てきました。この動乱で敗北したのは南朝であることは知られたとおりです。また、直虎の曾祖父である、井伊家二十代当主・直平は、永正の乱で守護の斯波氏について今川氏と戦いましたが、ここでも敗北を喫し、今川氏に従わざるを得ない状況となります。そして直虎の時代には、ついに井伊家取り潰しまで追い詰められてしまうのですが、直虎は幼い跡取りを生き延びさせ、仕官させ、見事井伊家の再興を果たします。この跡取りこそが徳川四天王の一人・井伊直政で、後に三十万石の近江彦根城主となるのだから、井伊のサバイバル力たるや、スゴ過ぎます。

有名どころよりも領国経営とオリキャラ

ここに来て山場を迎えた「おんな城主 直虎」ですが、放送を振り返ってみると、井伊領内の話に終始した回も多く、戦国大河としては英雄不在でややスケール感に欠けた時期がありました。しかしその代わりに、材木、綿花、鍛冶等々、井伊の経済基盤について扱っており、また、百姓の逃散、人身売買の描写なんかもあり、私には大変興味深かったです。井伊谷に限らず、どこの大国・小国においても、常に緊張状態にある戦国の世だからといって、毎日明けても暮れても戦ばかりしているわけもなく、むしろ領国経営に勤しむ時間の方が圧倒的に多いはずだと改めて気づかされました。現実に重点をおいた、一風変わった大河ドラマですね。でもまぁそれでも、架空の登場人物で話をひっぱり過ぎるのは、いくらストーリーが面白くても、何だかイマイチ気分が満たされません。今川や武田や徳川の動向を描く場面をもう少し増やすなりして、世の中は今どうなっているのかを示して引き締めを図らないと、視聴者が本来求めている大河ドラマとはあまりにかけ離れてしまいます。異色モノは大歓迎ですが、大河ドラマである以上、扱う内容のバランスは大事にしてほしいところです。

大河ドラマに「ベルばら」設定?!

それにしても、大河ドラマに女性目線の恋愛要素を入れまくるとは斬新です。昨年のNHK大河ドラマ「真田丸」のハチャメチャコメディを見た後だからか、私も受け入れ態勢が相当柔軟になってしまっており、不思議なぐらいに拒絶反応がないんですよね。勿論、史実などそっちのけで、下手な恋愛劇ばかりを見せられるならたまったものではありませんが、その点、森下佳子の脚本は良質だと思います。まず、基本である歴史をちゃんと過程や展開で描いており、ハラハラ感があります。様々なネタを所々に仕込ませては、後々きちんと回収して話の本筋に絡ませてくる芸当もあります。台詞回しもちょうど良い具合に知的だし。登場人物も一人一人が魅力的だし。その上で、メインキャストに「ベルサイユのばら」のオスカル、フェルゼン、アンドレという最強の関係性を取り込んできたから、これは歴史好き女にはもうたまらん、夢中になってしまいますね。それに恋愛における女性心理の「あるある」がてんこ盛りで共感することしきりです。こういう作品こそ、「女向け大河」と呼んでも決して侮辱にはならないでしょう。

「おんな城主 直虎」を恋愛劇にせんがため、リアル井伊にとっては、その父親同様に憎き奸臣であるとされている小野但馬守政次を、直虎の最強の味方という役柄にしてしまったのだから仰天です。これはかなり冒険的なトンデモ設定。視聴者の賛否が大きく割れるんだろうなと思います。私はエンタメ性が高い大河が嫌いではないので、NHKは面白い仕掛けをしたなとニヤニヤしていますが。細かい部分はさておき、重要な史実に関しては史実として違えることなく、どう辻褄合わせをしてくるのか、ワクワクしながら見てきました。

と言いつつ、政次が直虎の味方であるということに、解せないところが私も全くないわけではありませんでした。井伊家掌握という親の代からの悲願を、恋心だけで無視できてしまうものだろうかと。設定自体は面白いと思うものの、何だか動機が弱いような。直虎に寄せる思いを、政次はこれまで己の胸だけに固く秘めてきたのですが、前回初めて自身の口で明らかにしました。「私は幼きときより、のびのびと振る舞うおとわさまに憧れておったのかも知れん。それは今も変わらぬ。殿をされておられる殿が好きだ。それは身を挺してお助けしたいと思う。その気持ちは何かと比べることはできぬ。捨て去ることもできぬ。生涯消えることはあるまい。」 ふ、深い。政次の思いは、もはや恋心なんていう次元ではありません。アンドレをも超越しているかも知れません。ここまでの境地に達しているならばと、得心がいきました。「井伊と小野は二つで一つであった。井伊を抑えるために小野があり、小野を犬にするため井伊がなくてはならなかった。ゆえに憎みあわねばならなかった。そうして生き延びるほかなかったのだ。だが、それも今日で終わりだ。」 これは井伊家を再興すると宣言した際、小野の家臣らに語った言葉。もう何ら不自然だとは感じませんでしたよ。そして今回、龍雲丸が言っていたように、政次にとっては、直虎こそが伊井そのものなのですね。あぁ、なんということでしょう、愛と忠義は極めると同じところにいきつくなんて。感動です。

神業!史実を変えずに究極の愛

政次の最期は本当に衝撃的でした。史実通りに獄門刑に処されたことも意外でしたが、まさかこう来るとは。理解し、尊敬し、真に信頼し合う者同士の、究極のラブストーリーとして締めましたね。政次の思いに直虎が完璧な形で応えたとき、政次がふと浮かべた嬉しそうな笑み。涙腺が決壊しましたよ。奇跡のようなシーンです。こんなパターン、歴代の大河ドラマでも見たことがありません。政次が直虎へ碁石を渡したことや、政次の辞世の句「白黒をつけむと君をひとり待つ 天つたふ日そ楽しからすや」も、もう嗚咽モノ。二人が人目を忍んで夜な夜な語り合ってきたときの供が囲碁でしたからね。二人にとって囲碁は、井伊の歩むべき道を決める際に欠かせない小道具であり、また同時に、プラトニックなコミュニケーション手段でもありました。その囲碁を政次の最期にこんな風に使うとは、悔しいぐらいに上手すぎます。周囲の人々には、実は小野但馬守は井伊の味方なのだと最後になってバラしちゃったり、もう既にバレちゃってたりで、おそらく政次は、どこかで切られるでもして、皆に惜しまれつつ生ぬるく逝くのだろうと勝手に想像していたのですが、見事に予想を裏切られました。最終的に、やはり小野は井伊の仇だったという表向きの関係性を保ったまま、究極の愛を描いてのけたのだから、森下佳子の脚本、あっぱれです。政次役の高橋一生と、直虎役の柴咲コウの熱演も素晴らしかったです。「おんな城主 直虎」、いっそここで完結させて、名作として殿堂入りさせちゃいましょう、いやホント。

「おんな城主 直虎」のサブタイトルは、毎回、有名な映画や小説のタイトルを文字っており、今回は「嫌われ政次の一生」。ベースは「嫌われ松子の一生」なわけですが、よくもまぁ視聴者が悲鳴を上げること必至な回で、サブタイに役者の名前を入れて遊ぶなんて。作り手の妙な余裕を感じて、こちらも冷静さをほんの少し取り戻せるのが救いでしょうか。

政次の退場でこの後テンションがダダ下がりしそうなので、とりあえずここらで一度感想を書いておくことにしました。 もちろん井伊家再興を見届けるべく最終回まで視聴するつもりですけど。今更なんですが、死に様マニアから森下氏に一言。こんなスゴイ脚本を書く腕があるなら、桶狭間での今川義元や井伊直盛の最期ももう少し頑張って欲しかったなぁ。

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