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NHK大河ドラマ2010年代

NHK大河ドラマ[花燃ゆ]奥御殿編放送中

投稿日:2015-08-13 更新日:

高杉晋作のクーデター・功山寺決起を扱った先週は、珍しくそこそこに見応えのある良い回でした。高杉晋作の動向と大義にスポットを当て、それにある程度の時間を割いたことが功を奏しました。数々の名ゼリフも生きていて、初めて高良健吾・高杉がカッコよく思えましたよ。椋梨藤太を演ずる内藤剛志も敵役として存在感を放っていました。主人公・文(美和)と、文が身を置く奥だけは相変わらず意味不明で不要でしたけど、今回ぐらい尺が少ないなら、まぁ許せなくもないか。

2015年の大河ドラマ「花燃ゆ」、一応見ています。前回は、物足りなさはかなりあるものの、「花燃ゆ」にしては予想外に良い回だったので、書き出しはちょいとハイテンションになりましたが、それまではいつ見るのを止めようかと真剣に悩むほど、挫折寸前の状態でした。

杉文ってどなた?

NHKが「花燃ゆ」で杉文の生涯を描くと発表したとき、彼女の存在を知る人がどれほどいたでしょうか。吉田松陰の妹であり久坂玄瑞の妻だと説明されて、少し興味を抱いた物好きな人がいたとしても、「幕末男子の作り方」だとか「幕末のホームドラマ」などという軽々しいキャッチコピーを聞かされれば、大河ドラマでそれはないだろう、遠慮願うと逃げますわな。「イケメン大河」ともうたっていたけれど、ターゲットは女性だけなんですかね。私を含め、イケメン好きの女性はたくさんいるとは思いますが、大河ドラマにおいては外見的なイケメンよりも中身のイケメンを見たいもの。勘違いするな、女をバカにすんな、ですよ。「花燃ゆ」の視聴率低迷なんて、ドラマが始まる前から決まっていたようなものです。

それにしても、今回の大河ドラマ制作の目的は、どうにも不可解です。あの人の地元・山口県を大河の舞台に──まことしやかにあちらこちらで囁かれているように、やはり「花燃ゆ」は、NHKサンがA首相に媚びを売って企画したものなんでしょうか。そして、A首相が尊敬し、演説でも度々名が上がる「松陰先生」を主要キャストで登場させよう、と。でも主人公は順番的に女性だし、困ったな、誰かテキトーな人物はいないかなと、取材してみて見つけてきたのが吉田松陰の妹・文なのでありました──ということ? 無名女性を無理矢理主人公にした作品の中身は、やはりというべきか、インチキと妄想のオンパレード。もはや歴史物語とは言えず。A首相を喜ばせるどころか、結果として長州をものすごく侮辱しているように見えるんですけど。大丈夫なんでしょうか、NHKのM会長?

少し調べてみたんですが、この文サンという人、吉田松陰の妹だけあって、実際には武家の心得と高い教養を兼ね備えた、とても優秀な女性だったらしいですね。だからこそ、毛利元徳の正室・銀姫付きの女中に登用され、興丸(のちの毛利元昭)の守り役まで任されたのだとか。ドラマでは才女ではなく、型に縛られない(=分をわきまえない、現代的感覚を持った)女性ってことになっちゃってますけど。

トンチンカンな「花燃ゆ」

先ほど「花燃ゆ」を「インチキと妄想」なんて書いてしまったので、その根拠をいくつかあげておきます。例えば今現在放送中の奥御殿編について。史料によると、リアル文サンが毛利家の奥に勤め出したのは、慶応元(1865)年です。これは高杉晋作が功山寺決起した元治元(1864)年の翌年にあたるんですね。つまり文サンが奥勤めを始めた時期は、既に幕府恭順勢力は払拭され、藩情勢は松陰や久坂が存命だった頃の反幕路線に戻っていたということです。ドラマ中の文は、やれ罪人松陰の妹だ、長州を朝敵にした久坂の妻だと、危険人物のように周りから目を付けられていますが、状況的には考えにくいことなんです。リアル文サンの奥での働きは、銀姫の女中であったことと興丸の守り役をしたということ以外、具体的に何も残されていないらしいので、今放送中の奥御殿編は、書き手の妄想だけで成り立っているということですね。政治情勢を殆ど省いてまで描く、このインチキ奥御殿編は、大河ドラマとして有りなのかナシなのか。奥御殿編に入ってから視聴率が若干持ち直してきたとか言われているから有りなのかな。いやいや。歴史をここまで無視する大河ドラマなんて有り得ん。単なる創作時代劇なら別の枠でやっていただきたいものです。

あと、ドラマ中ではもう過去の話ではあるんですけど、私が一番解せないインチキは、文と夫・久坂玄瑞の関係性です。なぜわざわざ歪めて悪く描かなければならないのか。実際結婚しても殆ど一緒に暮らすことはなかった二人ですが、手紙を頻繁に交わしていたようで、リアル久坂玄瑞は手紙の中で文をいたわり、歌を送り、ときに政治情勢を聞かせ、苦しみを吐露したのだとか。離れていても、二人の心が固く寄り添っていたことが想像できます。禁門の変で命を散らした玄瑞の無念や、見事な生き様を文は誰よりも分かっていたのではないでしょうか。なのに驚くことに、ドラマの二人はこれと正反対なんですよね。ドラマでは、久坂は周りから言われて、しぶしぶ妻に手紙を書いてみるといった具合。手紙をもらったところで、文は夫が何を考え、何をなさんとしているのか、サッパリ理解していません。で、ついにはどうして夫は死なねばならなかったのかも分からず、理由を知るために奥勤めをしよう、殿様と直に話ができるように奥で出世しようという方向で話は進んでいきます。要するに、二人の仲を現実よりもイマイチな風に描いたのは、奥勤めをする動機づくりのためってことですか? こんなフィクションて許されるんでしょうか。トンチンカンもほどほどに。ホントの文サンと久坂玄瑞が哀れです。

まぁ哀れといえば、「花燃ゆ」では誰も彼もが哀れです。メインキャストでいえば、久坂玄瑞は結局何をなしたのか、どんなに優れた人物だったのか、妻どころか視聴者にも伝わらず。浮気をしたことだけがやたら印象に残ってしまいました。吉田松陰については、塾を開いたことは分かったんですが、松陰の具体的な思想が示されなかったので、門人達にどんな影響を与えたのか伝わってきません。「キミの志はなんですか?」や「狂いたまえ!」のセリフがやたら繰り返されたのみで、松陰がなぜ偉大な師匠になれたのか謎です。文と松陰の親兄弟がいる杉家も、ほのぼのとした温かい家族ですが、インテリな雰囲気は欠片もありません。

そこまで無理しなくても

そもそもこの「花燃ゆ」、文を主人公にし、文ばかりを追っているという時点で、もはや歴史時代劇として成り立とうはずがありません。私は無理に女性を大河ドラマの主人公にする必要はないと思うんですけどね。もしNHKさんがどうしても女性を前面に出したいというのならば、今回の「花燃ゆ」でいえば、文がナレーションを担当し、文の言葉で長州の人々を追っていくというのも手ではなかったでしようか。

今回のキャストは、「篤姫」や「龍馬伝」など幕末モノとしては近年そこそこ人気があったとされる作品に出演した大物役者や実力派俳優を、これでもかとばかりにズラリと揃えて脇を固めています。視聴者の関心を引こうとする仕掛けなのか、その安易さにイラっとします。作品の中身に自信がないことの現れですね。画面に映し出されるのはどこかで見たような光景ばかり。

とりあえず、維新あたりまでは見てみようかな。その後はもう無理かもです。なので、最終話を待たずに感想を書いてみました。

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