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NHK大河ドラマ2010年代

NHK大河ドラマ[軍師官兵衛]をみて 其ノ弐

投稿日:2014-12-28 更新日:

(「NHK大河ドラマ[軍師官兵衛]をみて 其ノ壱」からの続きです。)

正義のヒーロー黒田官兵衛

そしてそして。また新たに驚愕の事態が発生です。ブラックさも持ち合わせ出したはずの官兵衛が、どういうわけか、今度は正義感に満ちた熱血ヒーローに変貌してゆきました。天正十八(1590)年の小田原攻めは、秀吉の天下統一事業の総仕上げ。さすがにここはドラマでも少々時間をかけていました。無血開城に向けた和睦交渉において、さしたる駆け引きもないままに、正義の味方・官兵衛が思いやり溢れる条件を北条方に提示。が、秀吉が後からそれをバッサリ反古にしてしまうことで北条は滅亡。官兵衛がせっかく誠意でもって相手を動かしても、非情な秀吉がそれを台無しにしてしまい、官兵衛の立つ瀬がなくなるという展開。・・・って、何だか虚しさが残りませんか? 官兵衛ほどの者なら秀吉の行動ぐらい先読みしていて欲しいものです。官兵衛の正義が場当たり的で薄っぺらなこともあって、秀吉に都合良く使われているだけのマヌケにしか見えませんでしたね。主人公はどこまでも正義で、周囲はとことん悪という構図、まさか「軍師官兵衛」でも使われるとは。戦の具体がろくに描かれないのも、つまりは脚本が、主人公の計算高さや残酷な部分を見せてはいけないとの思い込みにとらわれているからなんでしょうか。主人公がいかに善人であったかを描くのが大河ドラマ制作の目的だというのなら、そもそも黒田官兵衛を主人公として選んだ段階で既に失敗ですよね。

黒田官兵衛の場合、「食えない男」として描いた方がどれだけ魅力的になることか。もっともそんな男を描くには、作者自身が黒田官兵衛並みの才を持ち合わせている必要があるわけで、今どきそんな力量のある脚本家サンなんて、そう沢山はいないのかも知れません。つまるところ、今回の脚本家サンが官兵衛像を捉え切れなかったため、安易に「善い人」として描く方向に逃げてしまったのでしょう。しかし、軍師を善人としてしまうには無理があり過ぎます。そういえば官兵衛が朝鮮出兵から無断帰国したときなんかも、ドラマ中では官兵衛が悪役の三成に騙されたせいだということになっていました。通説では、官兵衛が囲碁に興じていて三成を無視したから三成が怒ってしまった、だから官兵衛は釈明のために慌てて無断帰国したといわれています。例えばこんな些細なエピソードでも、通説通りにした上で、官兵衛の思惑を面白く創作してみせて欲しかったんですけど、ドラマ的にはマズイんでしょうか。正義の味方は他人を無視なんかしないってか? 主人公を正義の人として描こうと躍起になるあまり、結果的に「簡単にはめられるダメ軍師」として官兵衛を貶めていることに脚本家サンは気づいていないんでしょうね。

物足りない心情描写

戦の扱いが雑になると、人物の心情描写の希薄さがどうしようもなく目立ち始めました。ここでも官兵衛だけについて言えば、私がとにかくひいてしまったのは、官兵衛が突然キリスト教に入信したとき。なぜ官兵衛はキリシタンになったのか、理由が曖昧なままでした。脚本家サンは、どうせバテレン追放令が発布されたときに棄教しているのだから、入信理由などどうでもいいと思ったのでしょうか。確かに、黒田家正史「黒田家譜」にも官兵衛がキリシタンであったとの記載はありませんが、隠れて長く信仰を続けていたと思われる痕跡が多数残っており、幕府の追及を恐れて敢えて記載しなかったと考えるのが妥当です。おそらく有岡城での幽囚体験が大いに影響しての入信だと想像はできるものの、視聴者に自由に考えてもらおうといった姿勢はあまりに無責任。作者なりの解釈をきちんと示すべきでした。官兵衛を善人にしたいのなら尚更、官兵衛の内面を描く絶好の機会を放棄するなんてありえません。また、天下を掌握してから突然人が変わってしまった秀吉に対し、官兵衛がどういう思いを抱いているのかもなかなか明らかにされず、こちらにしてみれば何故そこまで秀吉に尽くすのか意味不明でした。隠居して名を如水と改めてからも、僅か2000石で再び秀吉に仕えることになって、やっとこさその理由が官兵衛の口から明かされます。「わしは殿下が変わりゆくのをお止めすることができなかった。せめておそばにいて最後までお見届け致す。それが殿下を天下人へと押し上げたわしのつとめ。」 へぇ、そうだったの。そういうことはもっと早く言ってよね、といった感じです。で、秀吉が亡くなって官兵衛が涙を流しているのを見たところで、官兵衛には複雑な思いがあるのかなと、ここでもまた勝手に想像してみるしかないのです。

「シンプル イズ ベスト」でいいのか

今回の「軍師官兵衛」を含め、近頃の大河ドラマはどうも単純というか、浅い印象が拭えません。原因は色々ありますが、物事をいつも一面からしか捉えられていないという点も見逃せないと思います。「軍師官兵衛」においては、例えば官兵衛が囚われの身となったことで、官兵衛が命の大切さを学んだことが強調されました。生還した官兵衛は、土牢の中から見えた藤の花を黒田家の新たな紋所として定め、こう言っています。「藤の花を見るとあの時の辛い思いが今でも蘇る。それと同時に生きようという思いもわいてくる。」「死があればこそ命は重く、そして尊い。黒田の者は皆、命の重みを噛みしめ、共に力強く生き抜いていくのだ」と。「生きる」という今作のテーマに沿った、感動的な台詞だと思いました。しかしあの幽囚体験で得たものとして、もう一つ、信義を尽くすことの大切さについてももっと触れても良かったのでは。救出後の官兵衛が絶大な信頼を得たのは、過酷極まりない状況の中でも決して裏切らなかったからです。また、親しかった村重に捕らわれ、主君に見捨てられた一方で、秀吉と竹中半兵衛が、官兵衛の息子・松寿丸(のちの長政)を信長の命に逆らってまで命懸けでかくまってくれたのは、官兵衛を信じ続けていたからに他なりません。信義を尽くすことの大切さを身を以て知ったはずです。秀吉に仕える中で、或いは敵を調略する中で、信義を重んじる姿勢を意識して見せていくというのがあっても良かったかも。命は確かに大切ですが、使い古された感のあるテーマだし、もう一押し欲しいところでした。

他にも例えば、「軍師官兵衛」では関ヶ原の合戦の際、官兵衛が九州を席捲した目的についてはただ一つ、天下を狙うこととされました。ドラマを盛り上げるためにも、是非とも天下は狙って欲しいものですが、黒田の所領を拡大したいがためという考えがまずベースにあることを欠かして欲しくなかったですね。「乱世を終わらせる」というキレイ事に過ぎない目標を掲げてしまったために、官兵衛の戦国武将としての基本姿勢が描けなくなっていました。

オカジュンが勿体ない

さてさて、終わりにミーハーな話になってゴメンなさいなのですが、文句をたれながらも今回私が最後まで見られたのは、官兵衛役のオカジュンこと岡田准一クンのおかげでした。V6でしょ、WAになっておーどろでしょなどと、実は初めはナメていました。が、意外にも演技と声がしっかりしていて驚きました。大河ドラマの主演を務めるに相応しい風格も備わっていて、今更オカジュンの魅力に気づかされました。で、更には、私は彼のお顔に見事にやられてしまったんですよね。美しすぎる・・・! 正直いうと、「軍師官兵衛」が終わって、彼の美貌がもう見られないのが寂しかったりしています。以前、NHKのスタジオパークに岡田クンが出演しているのを偶然見たんですけど、かなりの歴史オタクだそうてすね。好きな歴史上の人物に、結構マニアックな武将をあげていたのを覚えています。そんな彼が「軍師官兵衛」で描かれた官兵衛をどう思っていたのか、本音を聞いてみたいところです。推測するに、物足りなくて消化不良を起こしていたのでは。ドラマ中、関ヶ原の戦いあたりで官兵衛が不敵な笑みを浮かべる野心家に豹変したとき、私はふと思いました。彼は最初からこんなイメージで官兵衛を演じたかったのではないかなと。もっと中身のある脚本で、彼の官兵衛を見てみたかったです。NHKさん、いい加減にオリジナル作品を止めて、定評ある歴史小説を原作につけましょうよ。ホントにホントにお願い・・・。

作者は村重がお好き?

そうそう、「軍師官兵衛」は、人物の心理描写に問題があったと先ほど書きましたが、唯一例外があったのを思い出しました。荒木村重です。ただの憎まれ役で簡単に登場するだけかと思いきや、予想外に人物がクローズアップされました。信長に仕官してから謀反を起こすまでの心の変化、謀反後の心情など、何故か村重の部分だけ素晴らしい描写でした。脚本家サンは官兵衛よりも村重に思い入れがあったとみえます。村重役の田中哲司サンの演技がこれまた上手かったものだから、その存在感は格別でした。摂津有岡城跡近くに実家のある私としては、かなり嬉しかったです。

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