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その他時代劇(ドラマ・映画)

NHK連続テレビ小説[あさが来た]大好評放送中!其ノ壱

投稿日:2015-12-25 更新日:

最近の朝ドラはヒット作を連発していますね。実際、脚本と設定が良いものが増えたように思います。2011年の「カーネーション」、2013年の「ごちそうさん」、2014年の「マッサン」などは、私にとっても特にお気に入りの作品で、食い入るように夢中になって見ていました。それに台詞の掛け合いセンスが抜群の大阪モノは最強ですね。2015年秋スタートのNHK連続テレビ小説「あさが来た」も、実在した人物がモデルの一代記であり、しかも舞台が大阪だということで、放送前からかなり期待はしていたんですが、いやもう期待以上。高視聴率で連日何かと話題になっていますが、私もめちゃめちゃハマりまくっています。まだ放送も半ばながら、既に「私のもう一度見たい朝ドラ番付」の横綱になりました。初回から永久保存版として録画しておかなかったのを激しく後悔中です。

ヒロインのモデルは、女実業家の広岡浅子

今更書くまでもないかも知れませんが、「あさが来た」のヒロイン・白岡あさのモデルについて一応触れておきます。その人物は、明治を代表する女実業家として名を馳せた、広岡浅子。浅子は、嘉永2年(1849年)に山城国京都・油小路通出水の小石川三井家六代当主・三井高益の四女として生まれ、10代で大坂の豪商・加島屋に嫁ぎました。両替商だった加島屋は明治維新の混乱で経営が行き詰まり、浅子は事業界に身を投じて、当主と夫・信五郎(当主の兄)らと共に加島屋を立て直します。まず明治17年(1884年)に筑豊・潤野(うるの)炭鉱を買収し、炭鉱事業に参画。明治21年(1888年)には、加島銀行を設立。明治35年(1902年)、大同生命創業に参画。やがて加島屋は、大阪の有力財閥となってゆくのです。また浅子は、実業家としてだけではなく、教育者や社会運動家としても活躍しました。日本初の女子大である日本女子大学校(現・ 日本女子大学)の設立に奔走したり、婦人運動を行ったりするなど、女子教育や女性の啓発にも尽力したそうです。浅子主宰の若い女性のための講習会には、あの市川房枝も参加していたとか。広岡浅子は大河ドラマのヒロインになっても良かったんじゃないの?!と思えるぐらいの女傑です。

経済的要素を取り込んだ異色の朝ドラ

現在ドラマでは、九州の炭鉱で落盤事故が起き、主人公あさの嫁ぎ先・加野屋(モデルは加島屋)が再び経営難に陥るところまでが描かれています。「あさが来た」が面白い理由は本当に沢山あるのですが、その一つに、経済的な要素が強く、視聴者の知的好奇心を刺激してくれるという点があげられます。もちろん朝ドラですので、バリバリの本格経済ドラマというわけではないですけれど、朝ドラとしては異色です。廃藩置県により大名への巨額の貸付金が回収できなくなったり、大坂で流通していた銀が廃止になって大混乱が生じたり、薩長新政府軍から高額の軍資金を納めさせられたりと、両替商は未曾有の財政難に。加野屋以外にも、新政府にかけて躍進を遂げたあさの実家や、幕府にこだわり倒産に追い込まれていく姉の嫁ぎ先も登場させながら、維新の混乱期に両替商が置かれていた過酷な状況が丁寧に描かれました。加野屋が生き残る術を必死に模索し、嫁のあさがお家を守るべく「女だてらに」奔走する様子は非常に興味深いです。そしてドラマの作りとして私がお見事!と思ったのが、大森美香氏の大胆な脚色。『小説 土佐堀川 女性実業家・広岡浅子の生涯』(古川智映子著)の原作本をベースに、新たに五代友厚をメインキャラクターとして登場させている点が見逃せません。近代大阪経済の父・五代友厚が、ヒロインのあさを積極的に支援することによって、加野屋の奮闘を単なる一商家の頑張りという次元を越え、日本経済の発展へ繋がる、時代が生んだパワーとして捉えることができるのです。

大河ドラマよりも歴史劇として良質?!

今回の「あさが来た」は、朝ドラ史上初の幕末始まり。五代友厚の他にも大久保利通や福沢諭吉、ちらりとですが土方歳三まで出てくる珍しい朝ドラで、時代劇ファンには嬉しい限りです。時代背景が2015年大河ドラマ「花燃ゆ」とちょうど同時期なので、イヤでも比較して見てしまうのですが、「あさが来た」の明治維新後の日本の変化や人々の反応の描写なんか、「花燃ゆ」よりはるかに的確で情報量も多いんですよね。また、「花燃ゆ」では至る所で自由平等な空気が流れ、個人の自由がやたらまかり通っていたのが違和感ありまくりでしたが、「あさが来た」では封建的な風習が色濃く描かれています。それだけでも、もうどちらが大河なのか分からなくなってしまいます。「花燃ゆ」の悪口が何だかかなり混じってきましたが、続けます。また、「あさが来た」は人物造形の完成度が高く、人格を持った登場人物たちが常に主体となって時代をぐいぐい動かしているという印象があり、こちらの方がよほど躍動感ある歴史劇として楽しめます。そして、大きな時代の変化や大切な人の死に際しては、「花燃ゆ」のように延々と感傷に浸ったりしません。賢明にも、己を変えるべきときが来たのだと自ら気づき、覚悟を決めて前進してゆく登場人物たちの姿が描かれます。「あさが来た」では、時代を懸命に生きた人々の生々しい美しさを感じるのです。

それでも大河ドラマではなく朝ドラ

と、こう書いていると、いっそのこと「あさが来た」を大河ドラマ枠で放送しちゃえば?って感じになりそうですが、仕上がりはあくまで朝ドラなんですよね。人間ドラマとしての歴史時代劇の魅力を備えながらも、堂々と朝ドラであり続けるのは、作り手にそれを可能にする技量と、朝ドラを担当する歓びやプライドがあるからでしょう。やはり朝ドラは、「朝から元気になれる!」「すがすがしい気持ちになれる!」ことが鉄板条件です。例えばキャラクター設定に工夫を凝らし、コメディ要素を取り入れることでも、その条件をクリアしています。「あさが来た」では登場人物それぞれが、滑稽なぐらいのお茶目な面を持ち合わせており、特に主人公のあさは、「びっくりぽん」が口癖の、カラカラっとした突き抜けた明るさがある風変わりで可愛らしい女性に設定されています。視聴者をハラハラ緊張させるようなシリアスな展開が多々ありながらも、物語全体の印象が爽快に保たれているのは、登場人物たちの人としての性質によるところが大きいように思います。広岡浅子がモデルの物語だというのに、AKB48の主題歌がこんなにもピッタリ合うなんて、それこそ「びっくりぽん」です。

「あさが来た」の配役は

それからキャストがまた最高に良いんですね。皆さんホントに味のある演技をするし、適役揃いです。それに大阪弁がめちゃくちゃ上手い。全ての配役について色々書きたいところなのですが、長くなりすぎるので、ここでは私が特に気になったキャスティングのみに絞って書くことにします。
○ヒロインのあさ役は、モデル出身の若手女優・波瑠。あさのキャラクターを考えると、童顔で甘い声の女性のイメージがありますが、あえて真逆のタイプを持ってきたところが憎いですね。スタイルの良いスッキリ美人で、ドスの効いた低音も出せる波瑠が演じることでクールさが加わり、主人公の魅力が倍増。あさといえば波瑠、波瑠といえばあさといえるぐらい、唯一無二のヒロインです。
○あさの夫・白岡新次郎役は玉木宏。家業に関わろうとせずに三味線ばかり弾いている道楽者だけど、あさが大好きで、あさをしっかり支えて応援するという役どころを、こんなにも明るく楽しく、かつキリリとカッコ良く演じられるのは、玉木宏をおいて他にはいないでしょう。彼はこういう役が本当によく似合います。着流し姿も美しく、惚れ惚れします。
○加野屋の当主で新次郎の父・白岡正吉役は近藤正臣。関西が舞台のドラマにおいて、引き締め役としてこの人は絶対に外せません。演技が上手すぎて、地でやっているようにしか見えません。正吉さんが亡くなって出番がなくなってしまい、残念。
○加野屋の大番頭・雁助(がんすけ)役は山内圭哉、加野屋の中番頭・亀助(きすけ)役は三宅弘城彼らの名演がこのドラマの質を高めていると言っても過言ではないでしょう。この対照的な二人がいるから加野屋がもの凄く面白い。
○あさの姉・はつ役は宮﨑あおい。奥ゆかしく賢く逞しい姉役に彼女を持ってきたのは、主人公同様に意外性があります。新しい宮崎あおいが見られます。
○五代友厚役は逆輸入俳優のディーン・フジオカ。思わずついて出る言葉がいつも英語というのが面白い。ディーン・フジオカの五代様はとてもチャーミングで、白馬に乗った王子様のようです。彼の途中退場で五代様ロスに陥るのが今から恐怖。恥ずかしながら五代友厚について曖昧な知識しかなかったのですが、今回調べてみて凄まじく偉大な功績を知り、仰天しました。人間的にも魅力があるし、ドラマティックな生涯だし、NHKさん、是非とも五代友厚を主人公にしてスピンオフドラマを!

(「NHK連続テレビ小説[あさが来た]大好評放送中!其ノ弐」に続きます。)

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