先月6日より、NHK大河ドラマ「八重の桜」の放送が始まりました。2010年に大ヒットした朝ドラ「ゲゲゲの女房」で脚本を書いた山本むつみも、いずれ大河ドラマに来るんじゃないか、なんて以前に書きましたけど、やっぱり来ましたねー。今回こそは予想通り、なかなかイケてるんじゃないでしょうか。始まったばかりのうちから称賛することにすっかり臆病になってしまっているんですが、とりあえず今のところは、悪くない。
新島八重とは
今回の主人公は新島八重。会津藩・砲術師範の山本家に生まれた女性で、会津戦争では最新鋭のスペンサー銃を持って戦い、明治になってからは、同志社を設立する新島襄と結婚して夫を支え、日清・日露戦争では従軍看護婦として活躍。メジャーとは言い難い人物ですけど、略歴を見るだけでも、大河ドラマの主人公に取り上げられるに相応しい、壮絶な人生を送った女性です。日本テレビで1986年に放送された「白虎隊」では田中好子が山本八重を演じていて、私はその存在を知りましたが、彼女の生涯を詳しく描いた作品に接するのは今回が初めて。気骨のある、非常に魅力的な人物のようなので、とても興味深いです。
大人が楽しめる大河となるか
初回は意外や、1860年代のアメリカ合衆国から始まりました。北軍と南軍の激しい戦闘とその終焉を描きながら、シーンは徐々に日本・会津の鶴ヶ城へと移っていきました。南北戦争時に使用された武器が日本に渡り、今度は日本人同士が新政府軍と旧幕府軍に分かれて戦っています。テロップでは、「山本八重は幕末の会津で世界史の激流にのみこまれていく」、と。うわっ、スケールでかっ。いきなりこんな視点で攻めて、後々大丈夫か?、頭でっかち尻つぼみになりはしないかと、いきなり不安になってしまいました。けど、その不安は本編を見て、少しずつ消え去っていきました。本編は、八重の子供時代からスタート。山本家の人々にとって砲術とは何か、会津とはどのような気風の藩なのか、江戸では何が起こっているのか・・・具体で物語が進んでいます。セリフやナレーションも大人が聞くに耐えうる濃度と落ち着き。イイぞ、イイぞ。ここ何年かの大河ドラマとは違って、今回は妙に浮かれたりせず、足が確かに地に着いている感じ。マトモな大河ドラマが帰ってきたことがホントに嬉しくてたまらず、久々に日曜の夜が楽しみになりました。
なぜ西郷頼母は若手が演じない?
今のところ、基本的には大満足している「八重の桜」ですが、少ーし気になることを一つ二つ三つ。まず一つ目は西郷頼母の配役について。西田敏行サンは味のある、とっても良い俳優さんで、私も好きなんですが、西郷頼母を演じるには少々お年を召され過ぎていませんかね。西郷頼母は1830年(天保元年)生まれ。つい先日、ドラマ中で描かれたばかりの安政の大獄が1858年(安政5年)から1859年(安政6年)、桜田門外の変が1860年(安政7年)であることを考えると、やや違和感があります。「八重の桜」に限らず、大抵の時代劇で重鎮俳優が西郷頼母役を演じているのは、容保や白虎隊など有名どころが年若いため、会津藩のムードを引締める目的があるのでしょうか。
さて、1830年生まれといえば、西郷頼母の他に吉田松陰がいます(文政13年生まれ)が、「八重の桜」では小栗旬クンが演じていて、こちらは逆に時代劇にしては珍しく歳相応の配役。新鮮味があります。松陰は多くの若者たちに多大な影響を与えた、明治維新における精神的な指導者であり、ドラマ中では八重の兄・山本覚馬も松陰から多少なりとも影響を受けた一人として描かれていますね。で、気になることの二つめが、サブタイトルが「松陰の遺言」の第五話。小栗・松陰の死を、覚馬、佐久間象山、勝海舟に嘆かせればもう十分なのに、それだけでは飽き足らずに松陰の回想シーンまでふんだんに入れちゃったものだから、何だかねぇ、しつこさに逆に白けてしまうというか。2009年大河ドラマ「天地人」の小栗・光成切腹の悪夢がよみがえりましたよ。「八重の桜」では、人の死に際して、こういうチープな手で涙を誘うことはしないと思ってたんですけどね。残念。
それから気になる三つ目は、オフィシャルな場所でのお偉いさん方の議論。昔々の時代劇に出てきそうな古風な台詞を二言三言交わすうちに決着してしまうのが、やや物足りず。もっと激しい論戦を見せてもらえたら嬉しいのですが。って、贅沢な要求かな。
山本むつみの脚本に期待大
脚本の山本むつみサンは、「NHK大河ドラマストーリー・八重の桜・前編」(NHK出版)の中で、「人間の本当の姿をとらえるためには、背景となる時代を描くことが欠かせない」、「幕末の複雑な歴史に正面から向き合い、そこに生きた人間の姿を浮かび上がらせるドラマにしたい」と語っています。また、「歴史は『誰がいい』『誰が悪い』と、単純に割り切れるものでは」ない、とも。大河ファンには、頼もしく聞こえる言葉の数々です。「八重の桜」が壮大な歴史ドラマ、感動的な人間ドラマとなることを期待したいと思います。