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その他時代劇(ドラマ・映画)

NHK連続テレビ小説[あさが来た]大好評放送中!其ノ弐

投稿日:2015-12-25 更新日:

(「NHK連続テレビ小説[あさが来た]大好評放送中!其ノ壱」からのつづきです。)

働く妊婦のリアルな辛さを世間に知らしめる

最近新聞やテレビなどで、マタハラ問題やマタニティマークをつけることの是非がクローズアップされていますね。2015年NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」の脚本家がこうした問題に反応し、ドラマ中で扱っていたのが大変興味深かったです。ドラマではヒロイン・あさの妊娠初期の描写がこれでもかとばかりに盛り込まれていました。妊婦さんを社会全体で大切にしたいものだなという私自身の願いも込めて、改めて振り返ってみます。少々長いですがお付き合い下さい。

場面は加野屋が経営する九州の蔵野炭坑。妊娠が分かり、動けるうちに動いておこうと働くあさに、炭坑夫の親分の妻・カズはこう言います。「子を産むことは病よりもっと体に命にかかわりのあることなんばい。体の中でややこが大きゅうなるちゅうのは大ごとなことなんばい。馬鹿にしたらいかんとよ!」 妊娠は病気ではないなどと言って妊婦の体を労らない人って少なからずいますものね。また、つわりの描写がやけにリアル。一般的なドラマでは登場人物が妊娠したことを示すとき、うっと一瞬吐き気をもよおすだけで、あとは元気にケロッとしていることが多いものですが、「あさが来た」では違います。あさはつわりがヒドくて起きていられなくなり、横になったまま、ずーっとオエッとなっています。あさを心配する加野屋の番頭ら男達に、ここでもカズがキチンと説明しています。「つわりっちゅうのは始まってからひとつきかふた月か続くけんね。しかも奥さん、どうやらちいと重い方の具合のようやけん。」 番頭はびっくり。「つわりゆうものに重い軽いがあるのだすか!?」 カズ「そりゃありますばい。何日か気分が悪なるだけで終わるおなごもおれば、きつうて何も食べられんことなって弱ってしまうおなごもおりますとやけん。」 また、こんな場面も。妊娠したあさを連れ戻しに大阪からはるばるやってきたあさの夫・新次郎が、床に伏せているあさを見て、「えらいこっちゃ。これは何の病だっしゃろか?」 またカズが解説。「つわりですけん。吐き気が強うて、食べるどころか水も十分にとれましぇんと。」 それを聞いた新次郎はここで問題発言。「つわり?!そりゃ病やないねんな。」 あさはギョッとして新次郎を見るも、新次郎は自分の失言には気づきません。このあと、新次郎は結婚10年にしてやっと子ができたことを大いに喜び、「おおきに」「おおきにな」と涙を流しながらあさを抱きしめ、夫婦のラブラブシーンに・・・は、このドラマではなりません。あさは進次郎の髷の鬢付け油の匂いにオエーッ。笑いどころでもあり、深刻に見るべきところでもあり。新次郎が飲み物を差し出すと、あさ「水かて飲んだら吐いてしまう」と拒否。新次郎「病やのうてホンマ良かったわ」 あさ「次また病やない言いはったら怒ります!」 それから、つわりが少し和らぐという理由で、あさはミカンの皮を手に、匂いを嗅いで過ごすことにしました。九州から大坂へ帰る折には、ついにはミカンの皮を鼻に直接貼り付けた間抜けすぎる出で立ちで、炭坑夫たちに経営者としての挨拶をしていました。妊婦の切実なツラさをここまで表現し、周囲の理解を求めたドラマは他に見たことがありません。私は拍手を送りたい!

「あさが来た」の時代から殆ど変わっていない、働く女の苦悩

そういえば、ついこの間の放送では、幼い我が子を残して東京見聞に行くことを躊躇うあさに、姑・よのがこんなことを言っていました。「何かを選んだら諦めなあかんことかてあります。たとえ寂しい思うことがあっても、母親のくせして仕事ばっかりしてて後ろ指さされることがあっても、我が子に背中を見せるつもりで胸張って気ばらなあきまへん。それがあんたが選びはった道の歩き方やおまへんのか。」「おなごも覚悟を決めなあかんということだす。いいや、おなごも、おなごやからこそ、尚更、よけい覚悟を決めなあかんのだす。」 近頃発表された男女平等指数で、情けなや、日本は調査対象145カ国のうち101位だったそうですね。晴れて経済大国となってもジェンダー意識がいまだに強く、女が男性と同等に働くことが困難な現代日本。明治を生きる主人公の苦悩に、平成の私たち女性がそのまま我が身を重ね、共感できてしまうなんて。共感するならこの理不尽さに怒れ!もういい加減この状況を打破せよと、他でもない「あさが来た」だからこそ暗に訴えている気がします。

留意しておきたい、もっと複雑でエゲツナイ現実

さて話は変わりますが、「あさが来た」は、『小説 土佐堀川 女性実業家・広岡浅子の生涯』(古川智映子著)が原作となっているものの、構成を大きく変更しているそうで、脚本家・大森美香氏の全くのオリジナル作品と言ってしまっても差し支えないようです。「あさが来た」も朝ドラのお約束通り、夫婦愛や家族の絆がストーリーの軸になっており、この辺りを朝ドラ仕様に大幅に書き換える必要があったのでしょう。例えばドラマでは、あさと姉・はつの姉妹愛や、父・今井忠興、母・梨江との親子愛が美しく描かれています。あさの夫・新次郎は、妾は持たないと宣言し、あさとの仲はラブラブです。これらを描いてこその「あさが来た」なわけですが、広岡浅子もあさほど家族と良好な関係を築けていたかは疑問です。あさのモデル・広岡浅子とはつのモデル・春は、妾腹の異母姉妹だったそうです。新次郎のモデルである広岡信五郎は、浅子以外にも女中との間に三女一男をもうけています。現代の私たちの感覚からすると、現実はエゲツナイなぁといった感じですが、妾を持つことが半ば公認されていたような当時としては、さして驚くことではないんですよね。でもそこは朝ドラ。視聴者の大半を占めている主婦層の共感を得られるよう、妾の存在はなかったことにしてしまったんですね。私も朝ドラならこういう変更はやむなしだと思います。が、「あさが来た」はあくまであさの物語であって、そのまま広岡浅子の物語ではない点を忘れずに楽しみたいものです。

女性ウケを狙った大胆設定とその巧みさ

妾の存在を消し去った「あさが来た」ですが、大森美香氏はその代わりにとんでもないモノを用意しました。ヒロインを愛し支える、夫以外の男です。仲睦まじい夫婦のみを描くのが常の朝ドラでは、異例のブッ飛び設定です。朝ドラの常識を破って不埒な輩を登場させるぐらいだから、妾を消したのは単純に潔癖なドラマを作るためではないことが分かります。この脚本家は徹底的に女性ウケを狙っているんですよね。永遠の女性の憧れ――ヒロインと、タイプの異なる二人の男たちとの黄金の三角関係――実はこれこそが「あさが来た」の視聴率を押し上げる決定打となっているような気がします。「あさが来た」で登場する第二の男とは、なんと五代友厚。実在の人物にそんな役割を与えてしまっていいのか?妄想ドラマ化しないか?と心配になるんですが、そこは脚本が上手いんです。五代が惚れ込んでいるのは、ヒロインの商才と度胸。女性としても愛しているようなのだけれど、師弟愛や同志愛とも見分けがつきにくい。あさの力になれるのは自分のような男だと思っているので、新次郎があさの伴侶であることに納得していないのですが、どこか嫉妬も混ざっているように見えなくもない。一方、新次郎は、事業に邁進するあさを応援しているため、あさが五代を頼ることを認めているのですが、あさと五代の関係にはハッキリと嫉妬するときもあり、やはり視聴者にはヒロインを挟んでの三角関係に見えてしまう。このように五代の存在の描き方が絶妙なので、五代はヒロインの事業にただ全面協力するだけという事実を乱すことがないまま、物語が一段と面白くなっています。で、こんなオトナな男女関係がコメディになってしまうのが、「あさが来た」のスゴイところ。洋行帰りの五代はふと出る言葉がいつも英語なので、あさを素晴らしい女性だと折々にふれて思わず褒め称えるセリフも、当のヒロインには全く通じておらず、「はあー??」と、ポカンと返されるだけなのです。

不意打ちで視聴者の妄想を誘って過激にみせる

三角関係といってもこんな感じなので、民放の昼ドラ並のドロドロになることは有り得ないと油断して見ていたら、つい先日不意打ちを食らったんですよね。盟友の大久保利通が暗殺されたことで、五代が失意から酒に酔って我を忘れるという場面がありました。いつも紳士でキチンとした身なりの五代が、ここでは髪や着衣も乱れ気味で、やけにセクシー。そこへあさが五代を心配して駆けつけました。懸命に励ますあさを、五代はたまらず抱きしめ、男泣き。ええぇー?やっぱりそうなるか?! 突然の色っぽすぎる場面に、私は心臓をバクバクさせながら二人の行方を見守っていたのですが、しかしそこは「あさが来た」。五代はあさから離れた後、二度とこんなことはしないと謝り、互いに心の友であり続けようと確かめ合うのでした。もっとも五代は切なさそうでしたけれど。思い返せば、全く過激ではありませんでしたけど少し似た場面が新次郎にもありました。新次郎と三味線の師匠・美和、それから新次郎とあさの姉・はつ。ウソっ、この二人はそうなってしまう?と思わせる空気が一瞬流れるのだけど、でもそうはならない。もっと別次元な、誠実で品のある心の交流を描いたシーンであったことがすぐに分かり、結果的にジーンとはするのですが、一瞬ヘンな勘違いをしてしまった自分が凄く下等な人間に思えて情けなくなったりもして。まだドキドキの余韻が残ったままにもかかわらず、既にドラマのシーンは切り替わり、加野屋の新事業の話になっていたり、大阪経済再建の話になっていたり。頭も気持ちもかき乱され、脚本家にしてやられている感がありますね。大河ドラマもこういう手法を見習って盛り上げて欲しいものです。本筋を骨太にしっかり描くべく、男女の仲を扱う分量は極力少なくていい。しかも男女仲は必ずしもありきたりな恋愛関係でなくていい。けれどその分、視聴者の興奮と妄想をかき立てる工夫を怠るべからず。

様々な魅力が満載の「あさが来た」。後半戦は2016年1月4日からスタートです。今後の展開も目が離せません。

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