CSにて1991年のNHK大河ドラマ「太平記」が再放送されました。この「太平記」は、私にとって指三本に入る大好きな大河ドラマ。もちろん49話全てを永久保存すべく、BLに録画しながら視聴しましたよ。
よくぞ足利尊氏を主人公にした!
大人になって改めて「太平記」を見て、まず思ったのが、NHKさん、やるなぁ!!と、いうこと。1991年時点では、あまりに無知な子どもであった私も、やがて成人して現在に至るまでの約20年の間に、「南北朝正閏問題」なるものの存在をボンヤリとは知るようになりまして。「太平記」の主人公・足利尊氏が活躍する南北朝時代はその名の通り、わが国に南北二つの朝廷があったというビックリ仰天な時代。皇室のルーツに関わることなので、この時代の見方・扱い方は非常に難しく、南朝と北朝のどちらを正統とするかの議論は先の大戦あたりまで長く続き、足利尊氏を逆賊扱いしてきたこともありました。戦後は歴史研究が進み、この時代や足利尊氏に対する価値観も多様化してきましたが、21世紀になって十年ほど経った今でも、どうにもデリケートな問題であることに変わりはない様子。この時代に触れるドラマが作られる気配はありません。日本の歴史の中でこの時代だけが無視され続けると、鎌倉時代の次って戦国時代?と勘違いしかねないほどに、私たちの記憶にポッカリ穴が開いてしまいそうです。つまり、何十作とあるこれまでのNHK大河ドラマの中でも、というより、あらゆる歴史ドラマの中でも、南北朝時代と足利尊氏を扱ったという点で、この「太平記」は非常に珍しい作品であるわけで、実際世の人々からいかなる評価を受けたかはさておき、これを制作したNHKの勇気とチャレンジ精神はアッパレという他ありません。
これぞ歴史群像劇ダ!
私がNHK大河ドラマに期待するのは「歴史群像劇」である時代劇。私は、この「太平記」は歴史群像劇として、とてつもなく良く出来ていると思うのです。江戸の幕末とまではいかずとも、この鎌倉の幕末も様々な地域・立場の人間が登場してきます。人が多勢いすぎて非常にややこしくはあるのですが、登場する人物一人一人の思惑や長所・短所がとても上手に丁寧に書き分けられているので、視聴者はその一人一人の胸の内にいちいち共感せずにはいられません。たとえ主人公視点のドラマであっても、決定的な善人・悪人などいないのだと教えてくれるような作品はそう多くはありません。ホントに嬉しくなるぐらい良く出来た、優等生的な作品であると思われます。「太平記」では中盤からラストにかけ、一話でも見逃せば誰がどちら側の人間か分からなくなってしまうほどに激しい展開を見せてきます。まさに「今日の味方は明日の敵」の状態で、ドラマの半分以上が戦シーンかというぐらい、常に誰かと誰かが戦っています。こちらとしては登場人物全員を応援したいので、そのやるせなさ、ハラハラ感はたまりません。
セリフもシーンも、ザ・時代劇!
また「太平記」は、時代劇はかくあるべし!というシーンが満載の脚本が魅力です。次に挙げるのは、婉曲的な言い回しが素晴らしい一例。北条家に仕える佐々木道誉が、隠岐(佐々木一門の管轄)に配流された先帝(後醍醐天皇)を必要以上に丁重に遇したとして、内管領・長崎円喜が佐々木道誉を非難し、鎌倉への忠義立てを促すというシーン。長崎円喜:「河内の悪党どもが騒ぎ立てるのも隠岐の先帝ゆえよ。先帝さえおわさねば、すぐにも消ゆるあだ花よ。判官(佐々木道誉)殿の庭で何が起きようとも我らは関知致さぬ。」佐々木道誉、顔面蒼白。・・・・・・ゾクゾクする場面です。この長崎円喜の台詞を昨今の分かりやすさ第一主義の大河風な表現に変換してみますと、「幕府に忠誠を尽くす気があるなら、お前さんの管轄地にいる先帝を殺害してみてはどうか。先帝に従っている楠正成軍も鎮まるだろうよ。」となり、言葉の芸とはどういうものかが、より分かります。また次は、武将の雄雄しさと美しさが満点の一例。鎌倉に反旗を翻すことを決意した足利尊氏が、総勢一万の兵力を集結するに至り、ついに丹波・篠村八幡宮で挙兵するシーン。源氏の白い旗印のもと、尊氏:「直義(尊氏の弟)、一番の弓を命ずる。旗揚げの斎矢(イワイヤ)致せ。」直義によって矢が空高く放たれると、尊氏、おもむろに太刀を抜き、恭しく刀礼。そして白刃を掲げ、叫びます。「南無八幡台菩薩(ナムハチマンダイボサ~~ツっ)!!敵は京・六波羅!北条軍なるゾ~!」全軍:「オォォ~!!!」・・・・・・歴代の大河でも意外とお目にかかれない、フルコースの旗揚げシーンです。私も一緒に出陣するかのように大興奮してしまい、頭がクラクラしました。武将・尊氏の凛々しさは失神ものです。近頃は分かりやすさをとことん重視した作品が増えてきましたが、多少難解になろうが、この「太平記」のように時代劇ならではの要素をふんだんに盛り込んで欲しいものです。台詞を外国語に訳したところで異国の人には意味不明だろうなというぐらいの、「これぞニッポン!これぞサムライ!」の空気を感じたいのです。ちなみに「太平記」の脚本は池端俊策と仲倉重郎によるもので、原作(吉川英治の「私本太平記」)とは異なる部分が多く、オリジナル色が強いようです。
完璧すぎる配役!
演じる役者については、完璧ともいえる人選。主なキャストは、足利尊氏:真田広之、足利直義:高嶋政伸、高師直:柄本明、一色右馬介:大地康雄、佐々木道誉:陣内孝則、楠木正成:武田鉄矢、新田義貞:根津甚八、北条高時:片岡鶴太郎、赤橋守時:勝野洋、赤橋登子:沢口靖子、長崎円喜:フランキー堺、後醍醐天皇:片岡孝夫、護良親王:堤大二郎、阿野廉子:原田美枝子、北畠親房:近藤正臣、花夜叉:樋口可南子、藤夜叉:宮沢りえ、猿(ましら)の石:柳葉敏郎。皆サンがハマリ役で、別の俳優が演じることなど考えられません。というか、それぞれが徹底した役作りをしたのしょう。ハマリ役という言葉で片付けてしまうのは失礼かも知れません。中でも足利尊氏は正統派の二枚目で、正義感に溢れ、少し優柔不断という、ともするとありがちで個性のない人物になってしまいそうな役どころなのですが、それでも主役としてのオーラを放ち、ものスゴイ存在感をみせたのは、真田広之のズバ抜けた演技力ゆえなのだろうと思います。
まだ「太平記」を見ていない方には、是非とも完全版での視聴をオススメ致します!!